インプラント補綴の長期的成功の要点
去る2019年8月25日に東京・御茶ノ水のソラシティでネオス・ジャパン主催で、米国西海岸・シアトル開業のDr.John Hodges先生を講師にインプラントを長期に機能させるにはどのような視点・対策・治療計画を考えるべきかの講演が行われた。
ノーベルの小宮山先生も受講されており、中々面白い話が聴けるのではないかと期待は膨らみます。
米国のインプラントの現況も知ることができ、日本との相違も明らかにできればと思います。
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インプラントのトルクコントロールの重要性
冒頭インプラントの上部構造にかかる力のトルクのコントロールの重要性にHodges先生は言及され、日本で行われるインプラントの勉強会において、どうインプラントを骨の中に入れるかということは話題になるが、インプラントの上部構造体に関する抗力学的な対策・診断が話題の遡上になることは少なく、中々興味深く、臨床の参考になる話であった。
もちろん、3次元的にインプラントの位置をどう決めるかということは一番大切なことであるが、その上部の冠に関して、さらにきめ細かく、個々の患者さんの異なる状況に応じて、冠の形態をコントロールすることの重要性を再認識した次第である。
患者さんは、インプラントは全て同じもので、上の冠も電化製品みたいに同じ物という認識の方もおられるかもしれませんが、患者さんの個々の状況は千差万別であり、どのようにして長期にインプラントを機能させるか、臨床では症例に応じてきめの細かい対策が必要なのである。
特に感覚受容器の歯根膜がある天然歯と骨と癒着している状態のインプラントとの咬むということに関する感覚の差。
天然歯とインプラントの回転モーメント中心の部位の違いによるインプラント辺縁骨にかかる応力分散の差、等々話題満載であった。
インプラントのサイズ
インプラントのサイズも常に臨床ではいろいろ考えさせられる話題である。
インプラントの直径を太くするとインプラントの表面積が増大して、辺縁骨の負荷が減少する。
一方、インプラントの長さはどうなのでしょう。口腔外科のドクターは細くて長いインプラントが良いと言う。長期経過の中ではインプラント周囲の血流の確保が大切であるが、直径の太いインプラントは、この点では不利となる。
しかし、長ければ長いほど骨にかかるストレスが減少するとも言えない。
5mm~10mmの長さでは、長ければ長いほど応力の分散には優位に働くが、10mm~13mmでは、その効果は最小限となり、13mmを超えると、その効果は殆ど意味をなさなくなる。
トルクを減少させるために
インプラントにかかるトルクを減少させることが、インプラントの長期安定には最も大切なことである。その対策としては
- 冠のサイズを小さくする
- 咬頭傾斜角を減少する
- 冠・インプラント比率を減少する
- 連結冠
歯ぎしり対策
インプラントに対する為害性のある力の最も危険なものが、歯ぎしりである。患者さん自身が歯ぎしりや食いしばりの自覚が無い場合も多く、その場合は難しい対策を迫られる場合も多い。対策としては
- より強固な構造のプランを用意する
- 咬頭傾斜角を緩くする
- 太くて長いインプラント本体を用いる
- 1本ではなくできるだけ複数のインプラントを用い力を分散する
- インプラントを冠で連結し抗力学的構造を強化する
- 夜間就寝時ナイトガードを患者さんに装着してもらい、インプラントに為害性のある力が加わらないようにする
米国のインプラント補綴
講師のHodges先生がおっしゃるには、米国では総義歯からインプラントに移るという患者さんが大変多いということである。
米国の総義歯は専門医が作製すると費用は100万円位かかるのはザラであり、であるのならばもう少し費用を出して、インプラントを入れようかということに患者さんはなるわけである。
ですので米国では、全顎のインプラントというのは6本程度のインプラントで総義歯と同じ様な構造物を支えるというスタイルが多くなる。
我々が想像しているよりも上部構造体はバルキーな(かさばる)形態となり、神経質な患者さんには、なかなか受け入れがたい構造物の形となる。
Hodges先生曰く、インプラントの上部構造体は完全に天然歯と同一の物はできない、この点を患者さんにしっかりと理解してもらい、個々の患者さんにマッチした上部の構造体を患者さんと一緒に探し選択するというスタンスが最も重要とのことである。
発音の問題
10年も歯が無い状態で過ごしていた人がインプラントで上部の冠を入れると発音の時に舌の閉塞感を感じる場合があります。
慣れるのに時間がかかる場合があり、適応できない人も一部あるとのことである。