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痛みが取れないのは診断が間違っているのかもしれません。順序立てた論理的な診断過程が必要です。

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痛みは大きく3つのカテゴリーに分類される

 痛みはどのように感じるでしょうか?指先に針が刺さったら、その瞬間チクッとした痛みを感じるでしょう。その痛みは最終的に脳に伝達されて、初めて痛みとして人間には認識されます。
 いずれにせよ最後は脳が痛いと感じることで、初めて痛みは痛みとして認識されます。
 痛みは現在大きく3つのカテゴリーに分けられます。
 1つは先程のように体のどこかに刺激が加わり、その部位のセンサーから中枢(脳)へ痛みの信号が送られて、痛いと感じるもので侵害受容性疼痛と呼ばれます。
 2つめは神経そのものが外傷や変性等の変化によりダメージを受けるもので、神経原性疼痛と呼ばれるものです。代表的なものには、帯状疱疹後神経痛や三叉神経痛などがあげられます。
 3つめは脳そのものの痛みを感じるシステムが異常を来して、末梢の器官や神経に異常が無いのに痛みを感じる場合です。これは現在、痛覚変調性疼痛と呼ばれています。これには脳腫瘍や脳梗塞、頭痛なども含まれます。
 事故や糖尿病などで足の膝から下を切断したようなケースで、膝下が切断されているにも関わらず、足先の指の痛みやかゆみを訴えるケースがあります。
 これなども、膝下が無いにも関わらず、脳の内部では、膝下の該当領域野に変化が生じて、痛みやかゆみを感じていることになります。
 この3つの痛みは単独で現れる場合もありますか、いずれかが複数組み合わさって複雑に現れる場合も多く、慎重な診査・診断が必要です。

痛みの診断は順序立てた診査から始まる

 前項でも述べましたが、痛みは最終的に脳で認識されるわけであり、脳そのものが正常なのかを12の脳神経の簡単なスクリーニングで、まず確認する必要性があります。(参照:口腔顔面痛学会ニュースレター)
 また、これまでの治療経過や症状の経過を時間経過と共に、詳しく調べることが極めて大切です。これによってある程度の痛みのカテゴリーの推測がつく場合も多く、既往歴の充分な確認が重要です。特に問題が複雑化しているケース程この作業は重みをもちます。
 この後に身体所見を拝見させていただいたり、レントゲンを撮影したりして、痛みの診断をより確定的にする作業が行われます。
 特にこれらの過程の中で、可能性のある病名を除外診断することが大切で、これによりさらに確定的な診断に近づくことが可能になります。
 いずれにせよ、正確な診断が一番大切であり、痛みがどのような原因で生じているのかを客観評価することが大切です。
 痛みが慢性化しているケース程、この過程は重要です。
いきなりマイオモニターや顎運動計測の装置をつけて、咬合の運動解析をするのは、昔の治療概念です。くれぐれもお気を付けください。
 咬合という視点のみで、痛みを解析しても限界があります。多くの難渋する痛みは、脳内部の伝達信号システムの異常にあります。CTやMRIを撮影しても、脳内の出血・梗塞や腫瘍、脳の萎縮等は判別可能ですが、脳神経間のシグナル伝達の異常は、判別することはできません。

脳の痛みの感じ方は変化する

 脳の痛みを感じるシステムは極めて変化に富むものであることが最近解ってきました。
 抹消からの痛みの信号が長く続くと、中枢側の脳の中では変化が生じて、より痛みを感じやすい状態に変化してしまうことがあります。
 このため脳の感じ方の変化が亢進することで、抹消の組織は治癒しているのに、本人は痛みを感じ続けるという状態になることがあります。
 これが、いわゆる慢性痛というものになる可能性が高くなります。

いきなり咬合治療はしない

 歯科治療の歴史の中で、痛みや不定愁訴を全て咬合由来として、やみくもに矯正治療や冠等で、咬み合わせを変化させてきた時代がありました。40年以上も前のことでしょうか。
 現代においても、亡霊のように咬合治療のプライオリテイーを信じて止まない歯科医師も、未だ数多く残っています。
 咬合が全てという思考は、逆に言えば咬合しか見えていない訳で、中枢の脳の異常や伝達系統である神経、また、筋膜や他の末梢器官等の異常のチェックがネグレクトされやすくなります。
 咀嚼経路や下顎頭の診査を大掛かりな検査器械でやり、下顎頭の位置や咀嚼経路が異常であるからといって、痛みの原因を全てそれで説明できるわけではありません。
 奥歯の咬み合わせ面に白い物を接着し、奥歯の咬み合わせを挙げただけで、上下前歯の間が開いて、発音障害や麺類等が咬み切れなくなるなどの障害を呈して困っている患者さんは、世の中に多数おられます。
 咬み合わせの見た目はきれいになったが、痛みや咬み合わせの不定愁訴が取れない(これを専門的にはPhantom Bite Syndromeと言います)というのは、しばしばあることなのです。(参照:都内にはこのような患者さんが多数来院する大学病院があります)
 現在、咬合は1つの環境因子であって、痛みや不定愁訴の原因の全てではないと考えられています。
 ですので、顎関節症をはじめ種々の痛みを診断・治療する場合は、いきなり咬合治療をするのではなく、まず上述のように脳神経を始めとして順序立てて原因を正確に診断し、できるだけ侵襲が少なく、可逆的で、費用も余りかからない処置や治療からスタートするべきです。
 全顎的な咬合治療は、痛みや不定愁訴から解放されてから、環境因子の改善として、治療すべきかどうか、担当医と良くご相談の上行うことをお勧めします。
 現在、日本歯科医学会の分科会である日本口腔顔面痛学会が、痛みに関する治療のガイドラインを公にしております。是非、一度ご覧ください。(非歯原性歯痛のガイドライン)
また、日本顎関節学会からも、ガイドラインが出ていますので、ご覧になることをお勧めします。(顎関節患者のための初期治療ガイドライン)
 海外には、口腔顔面領域の痛みに特化した専門の歯科医院があります。
 これらの医院では、痛みの除去のために矯正治療や冠を被せる等の治療をいきなりすることはしません。
 また、行うとしても、痛みが除去された段階で、咬合というものが原因の発生に強く寄与していると診断・確信できる場合に行っています。
 これらの医院では、診断を最も重視し、理学療法士や心理の専門家とチーム医療を組み、患者さんの日常生活を含めた痛みの総合的なコントロールを最大の目標にして治療を行っています。
これが世界標準の痛みの治療というものです。

顎関節症の治療とは

 顎関節症の治療は、現在世界的傾向として、保存的な治療を主体として、患者さんの日常生活の習慣や癖の改善や、それに伴う簡単な理学療法やエクササイズを主体に実施しています。
 もちろん、疼痛が強い場合は投薬を実施したりもしますが、咬合を改善するためのスプリントを入れる機会も、以前と比して相当減少してきています。
 現在スプリントの効果は、世界的な検証で、本当に効果があるのかないのか良く解らないというレベルという段階で話されており、これで全てが解決する訳ではありません。
 むしろスプリントを入れることで、数週間上下の歯が非接触になり、歯ぎしりや食いしばりが抑制されることによる顎関節や筋肉のリラクゼーション効果の方が、改善に大きく寄与していると考えられています。
 いずれにせよ、顎関節症は多くの人が一生の内に一度は罹患するものと考えられており、多くのケースが経過の中で自然治癒しているというのが実態です。
 米国の厚生労働省にあたるNIHから顎関節症の治療のガイドラインが出ています。
 英文ですが、現在の顎関節症の世界的な潮流が理解できると思います。

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