めざせスーパー入れ歯師

 2019年6月2日日曜日、御茶ノ水の国立・東京医科歯科大学歯科同窓会主催で同大学・名誉教授の早川巌先生を迎えて、総義歯の勉強会が行われました。

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日本の総義歯臨床の現状

 早川先生は、御年78才ですが、現在でもシアトルのワシントン大学で講義を行い、また、台北の国立台湾大学でも教鞭をとられている都内開業の現役の総義歯専門の臨床医です。
 筆者も約30年前、名古屋で2日間に渡り、まだ早川先生が現役の大学教授のころ総義歯臨床のお話を伺い、感銘を受けたことがあり、久しぶりの早川先生の話に期待をもって、御茶ノ水の東京医科歯科大学へ参上した次第です。
 早川先生開口一番、「市中の眼鏡の値段より日本の保険の総義歯の値段が安いのは異常としか言いようがない」「日本の総義歯臨床の現状は、先進国の中で一番低いレベル」「まだ台湾・韓国・中国のほうが日本よりまともな総義歯作っている」「日本の総義歯は大多数が赤いプラスチックの板の上に人工歯を並べただけ」等々厳しいご意見が初めから炸裂です。
 更に「私も、現役の教授の頃、何度も厚生労働省に総義歯の技術評価を上げるように陳情したが、厚生労働省の係官は予算がないの一辺倒で、とりつく間がなかった」「現状の保険点数では、総義歯臨床は、まともにやると赤字になってしまう。」「そもそも材料代や型どりの消耗品代が保険原価を上回るという現状では、日本の保険の臨床では、先進国最低レベルの総義歯になるのも仕方がない」
 要するに、早川先生曰く、市中の保険の総義歯臨床は、国の貧困な歯科医療政策のせいで、経済的な問題で手抜き診療にならざるを得ないというのが結論のようです。

保険の義歯の現状

 更に早川先生のご意見は炸裂します。「いい加減に保険で総義歯製作しても、10人中5人は人間の適応能力で、そこそこ食べることはできる。」
 「残りの5人の内3人は柔らかいものなら何とか食べれる。しかし残った2人は、義歯が痛くて食べられない。」
 ここに初めてスーパー入歯師の必要性が出てくるのである。

基本を押さえることの重要性

 まず日本の保険臨床では、最初の義歯の予備的型どりで、殆どの総義歯のケースで、基本的な解剖学的な指標が、再現されていないことに、最大の問題点がある。
 ここを確実にクリアしないと良い総義歯は絶対に製作できない。

最終の機能印象で必要な型がとれていない

 日本の保険の現状では、最終の義歯の型取りで、失われた骨の量と形が再現されていない。(やるべき最終の精密な型どりのステップ自体を保険診療の中で歯科医師が行っていない・省略している)そのため理想的な位置に人工歯が並べられない。

人工歯の配置が悪すぎる

 歯科技工士も歯医者も本当の総義歯を知らない。そのため本当の義歯の人工歯の位置が解剖学的な指標とリンクしていない。
 結果、日本の総義歯は、大多数が老人性顔貌を強調する前歯部の配列になりやすい。
 最終の型どりが悪い、或いはそのステップを省略しているため、本来あった天然歯の位置に、そもそも人工歯が並べられないのが根本原因。

現状を変えるには

 いずれにせよ基本に立ち返って、臨床を再構成することが必要。
最後に、早川先生曰く「本日、私がお話ししたことを臨床で実践すれば、すぐ地域一番の入れ歯師になれる。」「何せ日本の総義歯は、世界では5流のレベルですので・・・・」

入れ歯で10才若くなる

 「適正な型どりとその後の適正な人工歯の配列ができれば、口元の見た目は、ガラリと変化し、入れ歯で10才若返るように見えることも可能になるかもしれません。」とのことでした。
 最後に早川先生が一般向けの方達に書かれた本があります。是非、一度読んでみて下さい。
 長生きする入れ歯・講談社・ブルーバックス