矯正・歯列を利用して顔を変える

講演するPaik先生

 去る2019年4月6日(土)~4月7日(日)東京都内において、韓国ソウルにて矯正専門医として開業し、UCLA、ソウル大学の臨床教授も兼務しているPaik先生の講義がありました。
 Paik先生は、日本・韓国・米国の3か国の歯科医師免許を所有し、なおかつ韓国語・日本語・英語も極めて堪能な方で、へたな日本人より日本語が上手い位です。数々の臨床研究・論文・書籍を世界レベルで発行している極めて著名な矯正臨床医です。
 矯正臨床の中で、歯を動かすだけでなく、顔の形をどう矯正治療によって変化させるべきなのかというテーマで、2日間に渡り、貴重なお話を聞くことができました。
 講義のみならず参加者と共にディスカッションするという症例検討会的な講義となり、大いに矯正臨床の診断思考回路が活性化された2日間となりました。

Contents

世界の矯正臨床の最近の傾向と問題点

 世界的に美容整形が流行っている中、矯正歯科治療においても、顎顔面外科治療と歯列矯正を併用したいわゆる外科矯正の割合が世界的に増えてきている。
 Paik先生の母校のソウル大学歯学部でも、4割が外科矯正ケースてあり、これは、主要な大学の歯学部矯正科においても、年々増加傾向をみているとのことです。
 そんな中でPaik先生が、提唱するのは、シビアな骨格的な不正があるケースは外科矯正に委ねるべきだが、軽度から中程度の顎顔面の骨格的不正は、通常の矯正歯科治療に加えて、アゴの骨や特定の歯に特別な力を加えることで、顎整形的なアゴの動きや骨の成長の加速・抑制を図ることで、十分達成可能であり、矯正歯科治療の本来の目的である歯列や歯をきれいに並べるだけでなく、アゴの骨を矯正力でコントロールして顎顔面の整形外科的治療を行うことをもう一度ビルドアップすることを考えようというものです。

インビザラインと矯正用インプラントがもたらしたもの

 インビザラインを始めとする透明なプラスチックプレートがもたらしたものは、歯列矯正の簡易化と臨床導入の手軽さだが、この類の装置では、歯は動くがアゴは動かせないというのが正直な所実態である。
 全てがインビザラインで解決する訳ではなく、どのような矯正治療目標を設定するかによって、当然いろいろな装置を選択して使用すべきかということが決められるのが本来矯正臨床のあるべき姿であろう。
 インビザラインがもたらしたものは、矯正治療の普遍化であるが、矯正臨床における診断思考の深化に関しては、マイナスに働いていると言わざるをえない。診断思考は浅く、そのためライトな治療手段であり、真の矯正難症例には本質的には向かないものなのである。。
 一方、矯正用のミニインプラントが現代の歯科臨床にもたらしたのは、治療の確実性と迅速性である。
 従来、矯正治療の後半においては、上の前歯を内側に引っ込めるステージでは、大なり小なりヘッドギアの家庭での装着が必須であったのが、現在はその動かす力の動力源としての主体は矯正用のミニスクリューである。
 しかし、ヘッドギアの装着頻度が低下するにつれ、ヘッドギアのもう一つの作用である顎整形力の効果というのが、特に若い先生達の間では、過去のものとなりつつある。
 もちろん、矯正用のミニスクリューによる顎整形的な使い方というものも存在するが、それは片側のアゴの骨だけの中での動きになることが多く、上下一対のアゴの骨のトータルな動きに関する思考は忘れ去られることが多くなっているのが残念ながら現状である

歯列を利用して顔の形をダイナミックに変更させる

 これからの矯正治療における診断は、歯と歯列の矯正もさることながら、顎顔面骨格をどう変化させ、適正なスマイルを獲得できるかということを真剣に考える時代に入ってきている。
 特に下顎が後退している上顎前突ケースにおいて、どのように下顎を前方に成長させるか、或いは、動かすかということを思考しつつ、上顎前歯部の適正な自然観をどう獲得するのかということを指向せざるをえない。
 また、下顎前突のケースにおいては、いかに上顎骨を前下方に動かすのか、そして、上顎前歯部が自然に見える状態を獲得できるのかということが課題である。

日本は矯正新時代の黎明期

 矯正用のスクリューの日本の薬事認可がとれたのが、世界の潮流より10年以上遅れた影響が、数々の所で出ている。とにかく認可が下りたのが、3年位前なのである。
 特に日本ではアゴヤ顔の形を矯正用のスクリューを支えにして変化させるという概念が、まだまだ矯正医の中では、希薄である。
 歯を動かすための固定源の強化という意味合いで使っている歯科医師が圧倒的に多い。
 こういう点では、矯正用ミニスクリューが最も早く普及した韓国や台湾では、固定源の強化を越えて、次の顎や顔の形を矯正治療メカニクスでどう変化させるのかというステージに完全に入っているのである。
 それが証拠に、現在日本で使われているスクリューは、韓国製が圧倒的にシェアでは多いのである。
 当院でも、15年位前から韓国から個人輸入して矯正用ミニスクリューを使用しており、国内で正式な認可使用が下りるのより、10年以上前から臨床導入を行っている。