国際学会等でも、しばしば日本の海外在住者の歯の神経の治療の質の低下が取り上げられる。なぜ日本の歯の神経の治療成績は、海外の国々に比して低いのか、考察してみたい。

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一番の原因は社会保険診療における低い技術評価

 日本の歯科医療の技術評価は低いが、東アジア地区においても、その評価は最低レベルである。
 このため痛くなければよいという、ほどほどの歯の神経の治療が圧倒的に多くなる。患者さんも社会保険制度の中で、気軽に歯科医院にアクセスできるため、治療の質を追求することは少ない。
 かくして、お互い痛くなければよいという低レベルの治療が横行するのである。

歯の神経の治療は保険できちんとやると赤字

 日本の社会保険診療において継子扱いの歯の神経の治療であるが、それが証拠に保険で難しい歯の神経の治療を積極的にしますよという広告・宣伝は世の中には存在しないのである。
 保険診療でそれをすればたちまち経営の赤字が増大し、歯科医院の経営は行き詰ってしまう。
 東京や名古屋等の大都会では、歯内療法専門医がいるが、全て自費扱いの治療しかしない。
 或いは、保険医でありながら、顕微鏡を使用した歯内療法は自費扱いにしている違法ドクターも多い。なぜなら、そうしないと顕微鏡を使った診療は経営的に赤字になるからなのである。

コンセプトも器械も古い

 日本の社会保険診療の中では、多くの歯科医師が歯の神経の治療のレベルアップに消極的なのは、以上のことから自明の理なのである。
 かくして、学生時代や卒直後研修で習得した術式や器械を延々何十年と続けている歯科医師も多い。
 しかし、歯の神経の治療は2000年代に入り、世界では劇的に進化しているのである。

歯の神経の治療の進化

 現在、歯の神経の治療の3種の神器として言われているのは、CT、顕微鏡、NiTiファィルである。
 顕微鏡は1990年代初頭に米国で歯の神経の治療に用いられ、瞬く間に世界中の歯内療法専門医が使うようになった代物である。
 脳神経外科や眼科の手術でも用いられている顕微鏡は強拡大で物が見えるだけではなく、影の出来ない視野で手術することが可能である。
 歯の神経の処置・手術においても同様に、目の視軸と顕微鏡の光軸が一致することにより、影の無いクリアーな視界が確保出来るのである。
 CTが必要なケースは、歯の周りの骨の厚いケースで、従来のレントゲンでは、根の先の骨の溶けた病変が確認できなかったが、CTにより根の先の病変を3次元的にしっかり捉えることが可能になった。
 さらに、歯の神経の治療で難治化しているケースでは、その難治化の原因と対策を立てるのにも役に立っている。
 上記2つの器械があって、次に登場してきたのは、形状記憶合金でできたNiTiファイルである。
 元々はNASAの宇宙開発の過程で、パラボラ・アンテナを宇宙で開くために開発されたのが形状記憶合金である。
 歯の神経の治療に用いる形状記憶合金は、第5世代位に突入しており、第1世代の合金に比較すると、その柔軟性と強靱性が格段進歩してきている。
 なぜ形状記憶合金が歯の神経の治療で用いられのかと言えば、歯の神経が入っている根管は殆どカーブしているためである。
 日本の保険診療の低技術評価の中で、治療の質を確保しつつ、効率化・合理化を進めるには、NiTiファィルを使用することが、最も治療の質を担保することに繋がると断言できる。
 逆に言えば、使っていない歯科医師は、相当な時間をかけないと治療の質が担保できないのである。
 もう一つは、根管内に唾液が入らないようにゴムシートを歯にかける(ラバーダム)のが世界標準なのだが、これが9割方の歯科医師は行っていないのである。
 このため、特に奥歯においては治療中唾液が根管の中に入り、細菌を根管内に感染させることになる。

治療の概念の変化

 従来の歯学部の学生教育では、歯の神経が入っている根管は根の先端でぐっと狭くなっている(根尖狭窄部)と教えられていたし、9割以上の歯科医師が、それを金科玉条のごとく信じて今でも治療を行っている。
 しかし、最新の研究では、7割のケースは先端は狭窄しておらず、煙突のようにズドンと突き抜けているという概念に変化してきている。
 これを臨床的に解釈すると、従来の概念だと、多くのケースで根の先端部のクリーニング不足が生じることになり、時間経過と共に根の先の細菌感染が再発し、根の先の骨が溶け、さらに歯茎が腫れて予後不良となってしまうのである。

 もう一つの概念の変化は、器械的な根管のクリーニングもさることながら、その後の根管内の化学的な清掃をより丁寧に行う時代に入って来ているのである。
 多くの歯科医師は次亜塩素酸ソーダと過酸化水素水の交互洗浄でおこなっているが、既に教科書から消滅した処置なのである。
 現在はEDTAと次亜塩素酸ソーダを使うのが標準になりつつある。
 また、根管内のクリーニング後に根管内に何を入れるかということも、全く変化している。
 過去においてはホルマリン系の強い薬剤等が使われたが、発癌性の問題から、現在では使うべきではないということになっているのである。
 現在では、世界的には水酸化カルシウムペーストが主流になってきている。

より生体に優しい治療へ変化

 現代の歯の神経の治療はできるだけ歯の根の解剖学的な形を壊さないようにし、生体の治癒力を引き出すように、より優しく・シンプルな歯の神経の治療へと進化しているのである。

良い歯の神経の治療と出会うために

 良い歯の神経の治療をしてくれる歯科医師は、歯の神経の治療の困難性と重要性を認識しています。家を建てる場合で言えば、基礎工事にあたる重要な部分というのを認識しています。
 下記のようなことをしてくれる歯科医院が歯の神経の治療に真剣に取り組んでいる医院です。
 下記のような治療をすると、治療自体は経営的に赤字です。しかし、歯を守りたいという男気で、やっていると思います。

  • 歯の神経の治療の際、隔壁形成し、できるだけ歯にラバーシートをかけて、唾液が根管内に侵入しないようにする。
  • 歯の神経の治療の際、診断と治療の難易度と予後を説明してくれる。特に100%の治癒率ではないことを説明してくれる。
  • 通常の神経の治療で予後が悪い場合の次の治療を予め説明してくれる。
  • 通常のファィルに加えて、顕微鏡・CT・NiTiファイルを必要に応じて使用している。
  • 歯の根管の中には、発癌性のある薬を入れない。
  • 歯に仮のフタをする時に、唾液が入らないように、できるだけ封鎖性の良いものでフタをしている。ストッピングは古い治療です。
  • 歯の根の先に詰め物をした後、レントゲンを見せて説明してくれる。
  • 歯に柱が入るまで、常にしっかりした仮の詰め物をしている。

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